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低気圧に関する考察
雨は憂鬱だ。頭の中から何かが破裂しそうになって気分が悪い。頭が痛くて、くらくらして、ふらふらする。
そういう日は、ダンさんがやけに優しい。小さくくしゃみをすればティッシュ箱が滑り込んできて、ぐるりと肩を回せば着古した柔らかいカーディガンがそっとかけられる。生返事が続けば「もう寝よ」と布団に誘われるし、目元を擦れば頭を撫でられる。
気温が下がると、兎にも角にもダンさんが優しくなる。
その理由を知ってるから、気持ち悪いということもない。俺は、一年を通して一番優しいダンさんを堪能すべく全力で甘えることにしていた。
チハルは見た
俺は見た。山王の例会で飲んだくれるみんなの中で、異様に距離の近い二人の行動をなんだかんだ全部見ていた。少しだけだったりガン見だったり。どちらにせよ二人にはばれていると思う。俺はばれてやられるまえに、このメモを残しておきたい。
二人はいつも一緒に行動している。年齢差もあるし価値観の差もある。女の趣味も違うしバイクの趣味も違う。ロマンと実用性を求める二人は相いれないのだ。そのくせ釣り堀に一緒に行ったり俺を二人してハメたり――罠にであって怪しい意味じゃない――と阿吽の呼吸を披露している。なんかそういう名前の奴達磨に増えたな。まあいいか。
何にせよ俺が見たのは現実だ。酒も入ってたけど、ノンアルに切り替えて時間は随分と経っていた。だからあれは間違いなく現実だ。
月とスッポン
ぴちゃん、ぴちゃんと狭い室内に水音が響く。あとで締めなあかんなあと頭の片隅に放り込んで、肌という肌に泡をまとったテッツを見上げた。ドレッドってシャンプーめんどくさそうやなあ、はよ切ったらええやん。苦情を飲み込んで丁寧に頭を洗っているテッツに「イケメンやなあ」と告げると「気のせいでしょ」と冷たい返事が降ってきた。
ひとりの夜のひとりよがり
網戸すらない安い仮家に住んでいる。クーラーが効くまで、と開け放したままだった窓は、かれこれ五時間はそのままになっていた。涼しいというより冷たい風が入り込むようになってきた。あの人今何してんだろ。部屋に時計がないせいで時間すらわからない。スマホで時間を確認して、今頃は店仕舞いの準備だろうと当たりを付けた。だからと言って何をするでもない。出来ることなんて数えるほどしかなかった。
無力感に襲われて、座り込んでいた姿勢を倒した。縦長の四角い枠に暗い夜空が広がる。星が一つも見えない黒海に、ぽつりと黄色の舟が浮かんでいた。ぼんやりと光の影が月の形を象っている。綺麗だなあと持ったままだったスマホのカメラを外へ向けた。窓枠が入り込まないようにズームしていけば夜景はすぐにぼやける。人間の視界がそのまま残ればいいのに。輪郭と影が一緒くたになったいびつな丸い光と四つ向こうの通りにあるマンションをどうにか保存した。