goldBB


「キジー、バレンタインだけど」
「ああ、ごめん今年渡せそうにないから忘れて頂戴」
「分かった」

 そんな会話から、十日ほどたった朝のおはなし。

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幸せの青い鳥


 嗚呼、今幸せなのか。ふと至った結論があまりにも衝撃的だったせいで立ち止まる。いきなりの静止に腕を組んだままだったキジーがつんのめった。ええ、なによもう、と条件反射のように口をついた文句とともに振り返って、はた、とキジーの表情が一変した。なに、どうしたの。繰り返された言葉はトーンが違う。何よにやにやしちゃって。続いた言葉と心配そうな顔がかみ合わない。

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あいうえお作文「ま行」


「枕」

 無口な恋人との同棲を始めてからまず最初に行ったのは、不健康な生活の改善だった。食事は一日に一食は当たり前で、酷ければ何も考えずに抜いてしまう。そんな生活でよくもこう大きくなったものだと思うけれど、その分体に厚みがないから収支は釣り合っているかもしれない。

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黒い海



 幸せとは、他人には定義できないものである。幸せを求めて、母とも姉ともつかぬ面影の女を失って以来、幸せというものがわからない。父の形をしていないということだけは分かっているけれど、カイトとキジーの語る幸せというものは、なおさら理解ができなかった。
 二人は決して手を取ることなく、目を見て動く。達者な口、寡黙な男、かみ合うようでかみ合わない二人がそれでも共にいるのは、どこか根本が同じだからなのだと思っていた。
「……っとう、に。お前らは面倒だな」
「あんたには関係ないでしょ」
 暫くここ、空けるから。一人でせいぜい頑張りなさい。朦朧としたカイトを引きずって出ていくキジーを見送りながら、ひとまず一服することにした。あんなものを見ちゃ正気でいるのも一苦労だ。

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贈り物


 カイトさんをお借りしてもよろしいですか。タブレットを手に問いかけたコウを振り返って、キジーは首を傾けた。緩やかに三十度斜めにずれた視点を見つめながら、もう一度コウが同じ問いを口にする。
「この後、カイトさんをお借りしても?」
「カイトのことなのに、どうして私に聞くのかしら」
「……カイトさん、というよりもですね」
 視線が周囲を確認して、キジーに耳打ちをする。この後残るのがエナリとシムラなんです。途端に分かりやすくキジーの表情が歪む。言わなければよかったかとため息をついたところで、休みにもかかわらず職場へと顔を出したビトウを確認した。――勤勉なことだ。たとえ目的が女漁りであろうと知ったことか。

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