死体を埋めるなら

 死体沈めるなら、どうする。唐突な問いかけに、山田は首を傾げた。仮にもヒーローと呼ばれ、ランキング争いからは逃げているものの業界内での認知度も信頼も高い男からの問いであるとは信じられないし、実際目の前で頬杖をついて――どこぞの司令のようなポーズである――、トレードマークの包帯もどきをくるくるともてあそびながら、相澤消太ことイレイザーヘッドは、「死体沈めるなら、どうする」と言ったのだ。

「いや、それガチ?」
「お前ならどうする」
「まあ、ファットマンあたりなら大阪港とか言うんじゃねえの」
「お前は」

 おかしい。俺を見つめる視線は、じっとりと、ねっとりと、人殺し――ヴィラン殺しはノーカン――と同じような色になりつつある。なにを考えているのか、なにをやらかしたのか。山田は自身の返答を与えてしまうのが妙に恐ろしくて、他人の名前を挙げる。

「……ホークスなら玄界灘あたりで」
「お前は」
「……それ聞いてどうする」

 どうしちまったんだよ、と聞くのは簡単だ。そして答えは出ない。どうしちまったんだこいつは。そもそも犯罪を犯すなら俺を巻き込むわけがない、それなら一体。ぐるぐると回る思考をまとめて、ふと時計を見た。日付に時刻、前月翌月のカレンダーもまとめて表示される優れもののデジタル時計は、九月の末を示していた。

「……あ」
「ひざし、テメエならどうする」

 かの元ナンバーワンヒーローは言った。殺人事件の筋書きを考えよ。死因は水にまつわる死、登場人物は四人まで。なお再現はイレイザーヘッドとプレゼントマイクと自分、シナリオに沿った適任者とする――と。要するに、一年のヒーロー科演習のシナリオだ。八月のコラボストーリーが好評だったのなんだのと言い訳していたオールマイトは、単に勝ち逃げが嬉しかったのだろう。あれを、今度は自分たちでやりたい。魂胆が透けて見える指令に、手持ちの水死系推理小説を混ぜて適当に答えておいた。

 提出期限は今日まで。どうやらこいつはまだ提出できていないらしい。人殺しのような目は焦りの表れだった。

「日本海」
「ああ……、リアスか」
「ああリアスかって何だよ」
「分からん」

 大真面目な表情に、かわいそうなものを見る目になってしまったのは否めない。愛すべき同僚は、考えすぎて馬鹿になってしまったらしい。

「適当に自宅の風呂でも水槽でもいいと思うぜ?」

 推理小説は、溺死させた後に水槽に移動させるなんて手の込んだことをやる奴が多い。殺せば死ぬ。あとは逃げればいいだろうに。俺の考えなんて知らないで、同期はぐるぐると思考を巡らせていた。

 休憩時間は残り少し。まともに授業をしないこいつと違って、俺はつまらなくても丁寧な授業を心がけている。ばれないように準備をしよう。スリープ状態のパソコンをたたき起こして、俺は同期を放置することにした。